八年間にわたる「抗日戦争」において、中共こそが救国を担ったという主張が長年にわたって流布されてきた。しかし、それは嘘である。八年間におよぶ日中間の戦いで、日本軍の矢面に立ったのは常に国府軍だった。そもそも中共指導部に、日本軍に対する抗戦意欲はなかった。中共の至上命題は大陸の覇権を握ることで抗日ではなかったからだ。日本との戦争は国府を追放し、自らが権力を奪取する絶好のチャンスであった。対外的なアナウンスとして抗日を標榜しただけである。
本書は、そのような抗日戦争における中共の嘘を赤裸々に暴く書である。本書の価値は、ソースに「秘密資料」のようなものを取り上げず、全て中国国内で刊行された資料、すなわち、中共の公式アナウンスにのみ依拠して論を展開していることにある。美麗字句で綴られた行間から、中共の虚像を見事に描き出している。これは著者である謝幼田が米国に居住する身分であり(現在はフーバー研究所に勤務)、本書の内容が中国政府の許すところではない以上、反共プロパガンダと明確に区別がなされなければならないという点で賢明である。
ただ、ソースを公式史観にのみ依拠することは、インパクトとしての弱さ、読み物としてのおもしろさに限界を感じさせることにもつながる。それは仕方のないことで、その限界は敵である日本側の視点を別に対比させることで補えばよい。とはいえ、それを本書に求めるのは強請りすぎというもので、中国人研究者の手でこのような書が世に出てきたことを、まずは素直に喜びたい。
ひとつ残念なのは、邦訳版の出典が完全ではないことだ。本書は中共抗日史研究の入門書として最適なだけに、出典の明記、ソースの明示については、もっと神経質になるべきだったと思う。
初出:http://shanxi.nekoyamada.com/archives/000395.html