書評:餓鬼(ハングリー・ゴースト)―秘密にされた毛沢東中国の飢饉


かつて日本でも、政策の失敗で農村を不況の波が襲い、娘を身売りするなどの悲惨な話が巷に溢れたことがある。昭和初期の出来事だったが、それから30年も後に、隣の中国では昭和初期の農村不況とは比べものにならない規模の悲劇が起きた。

餓鬼(ハングリー・ゴースト)―秘密にされた毛沢東中国の飢饉

餓鬼(ハングリー・ゴースト)―秘密にされた毛沢東中国の飢饉

日本が高度経済成長を遂げていた1958年から1962年にかけてのことだ。テレビ、洗濯機、冷蔵庫の三種の神器が私たちの勤労意欲を刺激していた時代、なんと中国では3000万人に及ぶ餓死者を出す史上稀に見る大飢饉が発生していたという。しかもこれは「大躍進」という誤った政策による人災だった。毛澤東というたった一人の男が固執したロマンの代償だった。中国現代史のなかで最も混乱した時期とされる文化大革命に対し、その10年前に起きた「大躍進」と大飢饉については今まで知られてこなかった。本書は、その闇に包まれてきた大飢饉の様子を克明に描いている。

毛澤東が音頭をとった人民公社(共同食堂)は、食事の心配をする必要のないユートピアとなるはずだった。しかし、個人の鍋釜をすべて回収された農民を待っていたのは、非科学的な農法の強制と、ダム建設や”裏庭溶鉱炉”への大量動員による不作だった。そして徹底した食糧の収奪によって農村には空前の飢餓が襲った。悲惨なことに、食べるものがなくなった一家では、最初に女児の食事が減らされ、次に老人、残された親子にも食べるものがなくなると、人肉食が横行したという。まさに生き地獄だ。驚くべきことは、その当時も政府の倉庫には農村から収奪した穀物が山のように積まれており、海外にも数百万トンの規模で輸出がされていたということだ。そしてこの中国で起きたことは、スターリン治下のソ連で起きたウクライナ飢饉の歴史をそのまま繰り返しているのだという。

20世紀における大虐殺は、スターリンのソ連、毛澤東の中国、ポルポトのカンボジアと、いずれも共産独裁者の下で起きた。そしてもう一人、ヒトラーは、国家”社会主義”者だった。共産主義・社会主義が独裁と虐殺に親和性が高いことが分かるまでに、あまりにも多くの人の命が奪われてしまった。忘れてはならない教訓だ。

飢餓の存在を完全に隠し通すことができた中共は、いまもって飢餓の存在を認めていない。そして毛は、今も北京の天安門で防腐処理を施されて安置され、多くの観光客が詣でている。ただ気になるのは、本書に対する中共の姿勢だ。著者は本書のなかで農民から直接聞いた体験談として数々のエピソードを紹介しているが、農村でのインタビューは中国政府の協力なしには不可能だ。著者は本書を世に送り出した後も、香港英字紙の北京支局長を務めている(後に解雇された)。毛と中共の政策面での誤りについては影響は大きくないということだろうか。その点では”正しい歴史認識”を進めていく(せざるをえない)動きが現政権内であるのかもしれない。しかし、もし、中共が毛に対する公式評価「功績七分、誤り三分」の下に飢餓を認めるならば、それはあまりにも国民と死者を愚弄する話であろう。

初出:http://shanxi.nekoyamada.com/archives/000136.html

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