追跡調査

御親族の戦歴を調べる方法について

本稿では、元従軍将兵のご遺族を対象に、故人が戦時中にどの部隊でどのような作戦に従軍したのか、不幸にして戦没された場合はいつどこでどのように亡くなったのかを調べる方法についてまとめたものです。調査対象者は、陸軍将兵として日華事変以降の中国戦線に従軍した方を想定していますが、それ以外のケースにも応用できると思います。これから調査をお考えの方は参考にしてください。なお、故人が山西省で従軍していたことが明らかな場合は個別にご相談を承りますので、本サイトのコメント欄かメールでお問い合わせください。

故人の戦没または従軍状況の調査は、公的記録が残っているか否かの確認から始まります。以下の公的記録が存在するならば、多くの場合は故人の従軍部隊名、戦没者ならば戦没場所・日時が判明します。必ず確認するようにしてください。

軍歴照会
軍隊への入隊は公務員への任官と同義であるため、赴任時期など詳細が記録された「兵籍簿」というものが作成されています。この兵籍簿は、戦災などで失われたケースもありますが、原則として当人が陸軍に所属していた場合は本籍地の都道府県庁に、海軍または文官の場合には厚生労働省社会援護局業務課が現在も保管しています。これら機関に対して、記録の開示を申し出てください。このような請求は一般に「軍歴照会」と呼ばれます。軍歴照会は個人情報の開示となるため、原則としてご遺族に限られます。

(故人が陸軍将兵の場合) 故人の本籍地もしくはお住まいの都道府県庁の社会福祉関係部署へ
(故人が海軍または文官の場合) 厚生労働省社会援護局業務課 (代表 03-5253-1111)

戦没者の方:除籍(戸籍)の閲覧
軍歴を照会しても、戦災による焼失などで記録自体が残っておらず、判明しないケースも少なくありません。その場合には、故人が戦没者であるならば、除籍謄本・抄本を確認してください。戦死時の場所、日時、報告者名(ほとんどの場合が部隊長名)が記載されています。 除籍謄本・抄本の請求は、本籍地の市区町村市役所で、直系親族(父母、祖父母、子、孫)またはその承諾を得た人のみ請求が可能です。詳細は、故人の本籍地もしくはお住まい市区町村市役所にお問い合わせください。

戦没者の方:靖国神社に問い合わせをする
戦没者の方は、原則として、祭神名簿に載り、靖国神社で祭神として祀られることになっています。このため、一般的な名前でなければ、祭神名簿をもとに名前だけでも調べることは可能と思われます。靖国神社では、遺族の方からの問い合わせを受け付けていますので、靖国神社の社務所宛にお問い合わせください。

通称名から部隊の正式名称を調べる
軍歴照会や除籍謄本などの公的記録では、部隊名が正式名称ではなく通称や俗称で記載されている場合が少なくありません。その場合は、正式名称を把握することが必要となります。 下記の通称は、兵団文字符による記載例です。「雪」は第三十六師団、「甲」は北支那方面軍を示します。

(通称)雪3524部隊→(正式名)第三十六師団 歩兵第二百二十三連隊
(通称)甲第1484部隊→(正式名)北支那方面軍 独立野砲兵第十一大隊

兵団文字符に「兵団」や「部隊」をつけたり、「方面軍」を「派遣軍」と呼び変えた俗称での記載例もあります。

(俗称)乙兵団、乙部隊→(正式名)第一軍
(俗称)北支派遣軍→(正式名)北支那方面軍

通称名が部隊長の苗字で記載される例があります。下記は1937年12月~1939年8月まで兵団長(1938年以降は軍司令官)をつとめた蓮沼将軍の苗字をとって通称としたものです。

(通称)蓮沼兵団、蓮沼部隊→(正式名)駐蒙兵団(1938年以降は駐蒙軍)

防衛研究所などでアドバイスを受ける
公的記録がない場合や、何らかの理由で公的記録を閲覧できない場合などは、まず故人が従軍した部隊を特定することが必要です。故人が従軍した部隊を特定することで、具体的な当時の状況を知ることが可能となります。 しかし、従軍部隊の特定は、軍制と戦史に関する知識が必要で、一般の方が調べるにはどうしても限界があります。そこで、専門家によるアドバイスを受けることをお勧めします。 国の機関である防衛省防衛研究所や靖国神社の図書館である靖国偕行文庫では、戦史にまつわる調査研究を行っており、外部からの問い合わせに対応しています。個人の要請を受けて調査を行うものではなく、あくまでも資料のレファレンスという性格ですが、専門家によるアドバイスを受けることができます。

公刊戦史で部隊や作戦を調べる
旧防衛庁防衛研修所戦史部が編纂し、朝雲新聞社から出版された全102巻の『戦史叢書』は、近代日本の軍事史・戦争史を網羅した公刊戦史です。部隊や作戦の経緯が事細かに記されており、故人の部隊や作戦行動を把握するのに有用な資料です。国会図書館や都道府県立図書館には必ず所蔵されていますので、まずはこの資料にあたるようにしましょう。 故人の従軍部隊を特定する前提となるのは、故人の生年と従軍した地域です。

(日時)
日華事変に従軍の可能性がある人:1937年(昭和12年)現在で満21歳以上の人→1917年(大正6年)生まれ以降
太平洋戦争(中国戦線含む)に従軍の可能性がある人:1941年(昭和16年)現在で満21歳以上の人→1921年(大正10年)生まれ以降

※現役徴兵は満20歳で初年兵教育後の出征対象年齢として満21歳以上としています。
※日本陸軍では満17歳以上の志願兵や満14歳以上の少年兵制度がありました。

(場所)
満州(新京):関東軍
華北(北京):北支那方面軍(※)
内モンゴル(張家口):駐蒙兵団→駐蒙軍
華中(南京):中支那方面軍→中支那派遣軍→支那派遣軍(総軍)
華南(広州):南支那方面軍→第二十三軍

故人の従軍した部隊が華北(黄河以北)であるならば、上記※印の北支那方面軍の部隊を調べます。故人の従軍時期が事変初期の1937年~1938年であるならば、『戦史叢書』第86巻の『支那事変陸軍作戦 』を、1938年~1941年であれば第18巻『北支の治安戦 』を、1941年~1945年は第50巻『北支の治安戦 』を参照してください。また、陸軍航空部隊の場合は第74巻の『中国方面陸軍航空作戦』を参照するなど、調査対象となる部隊と時期、場所(作戦地、駐屯地)によって参照すべき資料が異なりますので注意してください。

郷土資料で部隊を調べる
陸軍では、故人の本籍地に対応して主として都道府県別に入営する部隊が定められていました。それぞれの地域に密着した「郷土部隊」と呼べる存在です。戦後は下記のように各都道府県別に”郷土部隊史”としてまとめられた資料が数多く刊行されています。

茨城郷土部隊史料保存会編『茨城陸軍諸部隊の足跡』1978年
岡山県郷土部隊史刊行会編『岡山県郷土部隊史』1966年
陸上自衛隊第13師団司令部四国師団史編さん委員会編『四国師団史』1972年
畠山清行『東京兵団 1~3』光風社、1976年

これらの郷土部隊史は、故人の部隊を特定するのに有用ですので、故人の本籍地に関係する資料がある場合は閲覧してください。なお、上記のように郷土部隊史は、編纂者や資料のタイトルも様々で、通常の書誌検索では探すことが難しいと思われます。地元の公共図書館に相談されることをお勧めします。

戦友会誌を調べる
『戦史叢書』は、第二次大戦における主要な作戦のすべてを網羅していますが、あくまでも軍、師団単位での記述が中心となり、各部隊の行動の詳細をつかむことは困難です。そこで、故人が従軍した部隊名と従軍時期等が判明したならば、その部隊の戦友会誌が発行されていないか調べましょう。部隊の戦友会誌は、『戦史叢書』では書ききれない部隊行動の詳細や元将兵らによる回顧録、戦没者名簿等が掲載されています。 例えば、前述の雪3524部隊に関係する戦友会誌は、師団としての『雪第三十六師団戦誌』(1988年)と連隊としての『歩兵第二百二十三聯隊史』(1980年)があります。 戦友会誌は、国立国会図書館や郷土の都道府県立図書館のほか、靖国偕行文庫昭和館で網羅的に蒐集されており、いずれも一般の方の閲覧が可能です。

公文書で部隊行動の詳細を調べる
事変初期に臨時編成された部隊などでは戦友会が存在せずに、資料が得られない場合があります。そのような場合には、部隊が作成した作戦日誌等の公文書にあたります。
一例として、事変初期に動員された第百九師団は、石川県金沢市に本拠を置く常設の第九師団を基幹として臨時編成された「特設師団」と呼ばれる師団です(太平洋戦争後期に硫黄島で玉砕した同号の膽兵団とは別)。北支那方面軍第一軍に配属され、中国山西省で作戦を行っていますが、1939年末の内地復員後に解散しており、戦友会もあまり組織されなかったようです。基幹となった第九師団関連の戦友会誌に記載がある程度で、第百九師団独自の資料は少ないのが現状です。
旧軍の公文書は、防衛省防衛研究所で閲覧が可能です。また、国立公文書館が運営するアジア歴史資料センターは、防衛研究所の史料を含む膨大な量の旧軍関係史料をインターネット上で公開しています。前述の第百九師団の資料としては、1939年1月に作成された「第百九師団長状況報告」(レファレンスコード C11111079900)があり、部隊の配置要図や作戦経過の概要などが報告されています。
これら公文書では、部隊が略称で記載されている場合があります。例えば、上記の「第百九師団長状況報告」にある警備配置要図では、1939年1月時点で山西省太原に駐留する部隊として次の記載があります。

太原警備隊:
69i(-Ⅲ)
Ⅲ/8D
ⅢMGs(-1、2、3)
109BA(-Ⅰ、Ⅲ、5、2/3RST)
6SA(-2、3、Ⅱ)

上記の意味するところは以下の通りです。

太原警備隊:
歩兵第六十九連隊(第三大隊欠)
歩兵第三大隊(第八師団より配属?)
第三独立機関銃大隊(第一中隊、第二中隊、第三中隊欠)
山砲兵第百九連隊(第一大隊、第三大隊、第五中隊、連隊段列2/3欠)
野戦重砲兵第六連隊(第二中隊、第三中隊、第二大隊欠)

これら英数字による略記号は「軍隊符号」と呼ばれるものです。国立国会図書館の近代デジタルライブラリーで公開されている1917年版の『陸軍軍隊符号』などを参考にしてください。

初出:http://shanxi.nekoyamada.com/archives/000964.html