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本書は、朝日新聞が中心となって報じてきた「万人坑」と言われるものについて、正面から否定する。万人坑とは、炭坑などで"搾取"された哀れな工人達が、酷使されまたは虐殺されて捨てられた遺体放置穴で、日本の悪逆さを証明するものと中国側(中共)が主張しているものだ。白骨化した何体もの遺体が発掘された状態のままで展示され、愛国教育の拠点となっている。
本書の中で山西省の大同における万人坑も取り上げられ、明確に否定されている。私は実際に大同の万人坑を訪れたことはないが、山西省で何人もの人にその存在をたずねたことがある。中国側の主張では六万人もの死者があったされ、事実ならば省内でも最も悲惨な場所のはずだが、その存在を知っている人はほとんどいなかったことに違和感を感じた憶えがある。唯一知っていたのは、大同で炭坑関係の地質研究所に勤務していた人で、戦後世代ということもあり、万人坑は日本人のやったこと、と教わったそうだ。
中国に詳しい人ならば同じことを感じると思うが、本書を読み始めてすぐに感じたのは、万人坑の遺体は集合埋葬墓か、もしくは戦後の中共治下で犠牲になった人々の埋葬場所ではないか、ということだ。後者の疑惑については、著者も大同の万人坑の項で触れている。自国での出来事を他国(日本)の仕業にするのは厚顔無恥としか言いようがないが、彼らにとって日本は敵国なのだと考えれば別に不思議ではない。むしろそれに乗って無検証に虚報を流すマスメディアの方が理解に苦しむ。
書評に戻れば、検証の精度はもちろんだが、行間から伝わってくる著者の姿勢にも感銘を受ける。事実を追い求めることに忠実な姿が浮かび上がる。同時に、実際にヒアリングを行った人には分かる共通する苦労だとか実感も随所にちりばめられている。本筋とは関係がなさそうな証言者のちょっとした想い出、それもたった一言だが、インタビュアーを前に過去の出来事を開陳する老齢の証言者の想いを表すのに充分だ。この著者は(誰かと違い)、間違いなく"取材"を行っている。
著者の田辺敏雄氏はホームページも開設している。現代史、特に日本の"加害"に興味のある人はぜひご覧になることをお勧めする。
http://home.att.ne.jp/blue/gendai-shi/


